女子第6回大会の記事

【「全国高等学校駅伝競走大会 50年史」(全国高等学校駅伝競走大会実行委員会・2000年5月発刊)より抜粋】

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仙台育英が連覇

2連覇の仙台育英のアンカー千葉
2連覇の仙台育英のアンカー千葉

第6回大会は仙台育英が2年連続2回目の優勝を果たした。仙台育英は1区のワンジロが2年連続で区間賞を獲得して勢いづき、2区の菅原、3区の五十嵐と3人連続区間賞で逃げきり体制。立命館宇治の追い上げをかわした。

立命館宇治は1区で10位と出遅れたが、3~5区で区間賞を独占して第1回大会以来6年連続入賞。市船橋もアンカー市河が2人を抜いて3位に入り、6年連続の入賞。西京は過去最高の4位。7位の九国大付は初の入賞を果たした。

■ レース評

先手必勝で仙台育英

1区の1.5キロ付近で集団から抜け出る仙台育英のワンジロ(右端)
1区の1.5キロ付近で集団から抜け出る仙台育英のワンジロ(右端)

仙台育英が主力を前半に投入する先手必勝策を実らせた。ワンジロがスタート直後から集団を引っ張り、1.5キロからは前に出て2位鹿島実・田中に27秒差をつけた。添上・山中、西京・吉村の両1年生、2年生の浜松日体・柴田らが続いた。勢いづいた仙台育英は2区・菅原が自ら昨年つくった区間記録を7秒更新する快走で、2位に浮上したライバル立命館宇治との差を1分8秒に広げ、優勝の原動力となった。狙いどおりに前半で独走態勢を築くと、3区も1年の五十嵐が駅伝特有の流れに乗って区間新。立命館宇治は3区から森垣智、平田、笠井が3連続区間賞で追い上げたが、前半勝負の仙台育英が、34秒差で後半勝負の立命館宇治の追撃をかわした。

1区13位と出遅れた市船橋が、2区以降の各選手が区間5位以内の堅実な走りで徐々に順位を上げて3位に食い込んだのは立派。1区で好スタートを切った西京が粘りのレースで4位に入り、5位は穴のない布陣で臨んだ埼玉栄、6位には1区18位の熊本市商が追い上げて入った。

故障克服、会心の主将

主将でエース。連覇がかかるとなれば、どんな選手でもプレッシャーを受けるのは当然だ。仙台育英の菅原にはさらにいくつもの重圧がのしかかっていた。「去年は勝てるかなあと楽しみにしていたくらいだったが、今年はまったく優勝のイメージがわかなかった」仙台育英の頂点までの道のりは決して楽ではなかった。

6月に交通事故で右足の甲をえぐられ、高校総体3,000メートルでは優勝したものの、その後故障が続き、国体では入賞もできない状態。自分自身がフォーム改造で苦しんでいる最中にエースのワンジロの父親が亡くなったという知らせが入った。ちょうど走り込みの時期にエースがケニアに帰ってしまった不安だけでなく、もう一人の留学生、ムタヒが不調続きという不安もあった。レギュラー争いが激化し、チーム内のムードがぎくしゃくしてしまった。

チームのムードメーカーはワンジロだったが、そのワンジロがいない。菅原は練習中だけでなく、日常生活に至るまで気をつかい、率先して冗談を言っては仲間を笑わせた。食事中に一番騒がしいのは主将の菅原になった。自分の不調を胸にしまいこんだ主将は、チームのために笑顔を見せつづけた。

1週間前の3,000メートルタイムトライアルで、菅原は自己ベストの8分59秒をマーク。「これでいけるかも知れないとやっと思えた」と言う菅原は、大きく腕を振り伸びのあるストライドでぐいぐい飛ばし、12分46秒の区間新、2位に1分8秒差をつける快走を見せた。続く3、4区の五十嵐、小野の1年生コンビは駅伝をしたくて仙台育英の門をたたいた選手。「3年間で1回でも走れたらいいと思った」(小野)と言うほど自分たちの夢をかなえることだけに集中しつづけた純粋な思いが、吹っ切れた菅原とうまくかみ合い、女子初連覇の重圧はなくなっていた。

「タイムよりもいろいろあったうえで勝てたことがうれしい」と二階堂邦博監督。昨年の初優勝の時には涙を見せなかった監督が、声を震わせながら菅原と手を取り合って喜んだ。

【市川 由美】