女子第8回大会の記事

【「全国高等学校駅伝競走大会 50年史」(全国高等学校駅伝競走大会実行委員会・2000年5月発刊)より抜粋】

現在の校名・旧校名一覧

埼玉栄、区間新3人の女王レース

優勝した埼玉栄のアンカー小島
優勝した埼玉栄のアンカー小島

選手層の厚い埼玉栄が地力を発揮、逆転優勝を果たした。1区6位でスタートしたものの2区から4人連続で区間賞を獲得。同校が今年の埼玉予選で記録した高校最高記録(1時間6分56秒)を30秒縮める快走ぶりで、史上2校目(第5、6回大会の仙台育英以来)の連覇に花を添えた。

留学生のアン・ワムチが2年連続で1区区間賞(区間新)を獲得した仙台育英が2位。田村が過去最高の3位に食い込んだ。6位の市船橋は第1回大会から8年連続3位以内は逃したものの連続入賞を更新。仙台育英は4年連続、1区でアベック区間賞を獲得した。

■ レース評

高校女子最高を30秒更新

仙台育英のワムチ(右から2人目)を先頭に五条通を快走する選手たち=1区2キロ付近で
仙台育英のワムチ(右から2人目)を先頭に五条通を快走する選手たち=1区2キロ付近で

埼玉栄が昨年同様に2区以降の区間賞を独占。前評判通りの圧勝で連覇を飾った。

1区は2キロ過ぎの上りで仙台育英・ワムチが抜け出し19分10秒の区間新記録。しぶとく粘った添上・山中美が9秒差で迫った。

埼玉栄は1区で28秒差の6番手につけたが、2区・里村が2キロ過ぎで2位に浮上し、仙台育英まで13秒差に迫った。3区からは、さらに地力を発揮。鳥海が1キロ地点で仙台育英をとらえてトップに立ち、逆に25秒の差をつけると、4区・田中が1キロ3分のペースで押し切って独走態勢を築いた。

結局、後半3区間で区間記録を更新。2位との1分40秒差は史上最高の大差となった。序盤からハイペースで入る自信に満ちたレース運び、むだのないフォーム、カーブのコース取りなど、あらゆる面で他チームより上手だった。

仙台育英は5区・五十嵐が好走し、2年連続の2位を確保。1区の7位で波に乗った田村が、ラスト勝負で西京に競り勝って3位と健闘。熊本市商は1区の出遅れが響いて5位。市船橋はエース不在が響き、第1回から続けていた3位以内入賞を逃した。

埼玉栄 3年生の意地が演出

3区1キロ過ぎ。埼玉栄の鳥海には、トップの仙台育英・佐藤のピンクのユニホームが次第に大きくなってくるのが分かった。「中継点では13秒離れていたけど、相手の背中が見えている限りは大丈夫。だけど1キロで追いつけるとは思わなかった」。並ぶと同時にあっさりと抜き去った。

上体の振れない安定した走りの鳥海。「さらに差を広げたかった」と、得意の上り坂でスピードを上げ、区間新記録の9分25秒。大森国男監督の計画通りの逆転劇だ。この瞬間に2連覇は確定した。

1区の橋本は区間新記録で快走した仙台育英・ワムチから28秒遅れの6位。しかし、総合力で圧倒する埼玉栄にとっては「予想通りの展開」(大森監督)で、慌てる選手はだれ一人いなかった。

続く2区は、上りのあと下りが続く難しい区間。そこを国体3,000メートル2位のスピードを持つ里村が力強いピッチで追い上げる。みるみるうちに差を縮めたが、決して無理はしない。「抜こうとは思わなかった。自分が抜かなきゃ他が抜けないというチームではないので」と里村。層の厚さと、3年ぶりに高校日本最高記録を破った自信が、逆転劇の源になった。

里村は故障続きで、全国大会は今回が初出場。1年では2区を走った鳥海も精神面の弱さから大会前に必ず体調を崩し昨年は補欠。1年生ながら昨年、2、4、5区で区間賞の橋本、田中、小島の3人の陰に隠れた存在だったが、最終学年で意地をみせつけた。2、3区は、派手さはないが、重要区間。そこでの3年生の底力が4区・田中、5区・小島までの3区間連続の区間新記録の快走につながった。

埼玉予選で更新した高校日本最高記録でかえってプレッシャーに苦しんだ大森監督だったが、チームをまとめる主将の桧山をオーダーから外せたのは、2人の存在があったからだ。「里村と鳥海が柱になってくれた」と目を細める大森監督。その視線の先には「いつも下級生に引っ張られるばかりではいけませんからね」という鳥海の満足感あふれる笑顔があった。

【中田 博維】