女子第9回大会の記事

【「全国高等学校駅伝競走大会 50年史」(全国高等学校駅伝競走大会実行委員会・2000年5月発刊)より抜粋】

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埼玉栄が史上初の3連覇

にっこり笑ってゴールする埼玉栄の橋本
にっこり笑ってゴールする埼玉栄の橋本

スタート直後から主導権を握った埼玉栄は、一度もトップを譲らないまま大会歴代2位、高校歴代3位となる1時間7分0秒でゴールイン。史上初の3連覇を遂げた。

埼玉栄の1区・小島が24秒のリードを奪うと、2区以降はひとり旅の横綱レース。終始安定したレース運びで他校を寄せつけなかった。続く2位には、アンカー小林が4人抜きをした西京が入り過去最高の成績を残した。終始、上位をキープした諫早は6位で、長崎県勢として初入賞を果たした。上位7校が1時間9分の壁を突破するなど高速化が一気に進んだ。

■ レース評

埼玉栄の3本柱、有終の独走

埼玉栄の完成された強さばかりが目立った。1区で独走態勢を築き大差で3連覇を達成。1年時から連続して出場している3人娘は、小島、田中が史上初の3年連続、橋本は2年ぶり2回目の区間賞を獲得、有終の美を飾った。

1区の小島は競技場内から積極的に先頭に立った。2キロ手前で集団から抜け出し、中継所では2位に約120メートルの差。2区の田中も区間タイの快走でリードを広げ、タスキを渡した時には1時間6分台を記録した昨年の高校最高記録のペースを28秒上回った。中盤に貯金を使い果たし、記録更新の夢は消えたが、アンカーの橋本が3人目の区間賞を奪う快走でゴール。ムダのないコース取り、ピッチの確かさなど他チームを寄せつけなかった。

対照的に激しかったのが2位争い。最終5区の1キロ前後まで、西京、諫早、田村、立命館宇治などが一団となる展開。早めにスパートした西京が初の2位を達成した。1、2年生が4人と若い立命館宇治は3位に。5区に7位でタスキをつないだ筑紫女学園が諫早などをかわして4位に食い込んだ。4区まで2位を守った田村は終盤に崩れて5位に終わった。

逃げ切り 埼玉栄の起用が的中

「花の1区」の先頭集団から抜け出し独走態勢をつくった埼玉栄・小島=2.5キロで
「花の1区」の先頭集団から抜け出し独走態勢をつくった埼玉栄・小島=2.5キロで

圧勝で史上初の3連覇を達成した埼玉栄。だが、レース前の大森国男監督は怖くて仕方なかったという。「初優勝では『優勝できたらいいな』、(高校最高記録を出した)2回目は『記録を狙っていこうか』という軽い気持ちだったけど、今回は3連覇を当然のように言われ、かつてないプレッシャーでした」

しかし、選手に不安を悟られるわけにはいかない。それならば、と取った作戦が他をねじ伏せる先行逃げ切り策だった。埼玉栄にはタイプの違う橋本、田中、小島の超高校級選手3人がいる。そのうち、昨年の都大路と今年の埼玉予選で1、5区を走った橋本と小島をそっくり入れ替えた。

直前のオーダー変更は勇気がいるが、集団での競り合いにはストライド走法の橋本より、ピッチ走法で小柄な小島が有利。さらに上りに自信があり、どんな展開でも安定感のある走りができる小島を1区に起用することで、序盤から流れをつかもうという狙いがあったのだ。

思惑通りに小島は積極的に飛び出した。競技場内で先頭に立つと、2キロ手前でスルスルと抜け出し、けん制し合って飛び出さない2位グループとの差を徐々に広げていった。「最後の2キロがつらかった」と小島。口を開けて苦しそうな表情になったが、スピードは衰えず日本人選手ではこれまでの1区最高のタイムになる19分16秒。2位の田村・渡辺に24秒差をつける3年連続区間賞。この時すでに大森監督は3連覇を確信していたという。

2区以降もクロカンで鍛えたオレンジ色のユニホームが独走を続けた。リズム感のある田中がリードを広げると、体調を崩した岡安に代わり3区を託された都大路初出場の中野、次期エースの平野も崩れずにつないで、橋本がゴール。

初優勝では4区で逆転。2連覇のときは3区でトップに。そして今回は1区から独走と3本柱の集大成らしい完勝だった。「4連覇?当然狙います。ゼロからのスタートですが、続けることに意味があるのです」。大森監督は駅伝の女王を率いる監督らしい言葉で締めくくった。

【中田 博維】