女子第33回大会の記事

女子レース経過

1位でフィニッシュする仙台育英の須郷柚菜
1位でフィニッシュする仙台育英の須郷柚菜
 仙台育英は1区の米沢が2位に30秒差をつける区間賞の走りで勢いをつけ、2区の杉森、3区の山中も区間賞をマークするなど一度も首位を譲らずに独走した。2位の薫英女学院は4区の明貝が区間賞の走りで2位に浮上し、アンカーの水本がトラック勝負を制して順位を守った。3位の神村学園は5位でたすきをもらったアンカーのカリバが追い上げた。4位の立命館宇治は1区の村松が2位に入り、その後も安定して上位をキープした。

■ レース評

低温想定、前半に懸け

1区中間地点の手前で、常磐の並木(左)を引き離す仙台育英の米沢
1区中間地点の手前で、常磐の並木(左)を引き離す仙台育英の米沢
 「超前半型」の策がはまった。仙台育英の釜石監督には緻密な計算があった。気温が低く、冷たい風が吹く厳しい条件を想定。「前半から強い選手を並べないと流れを作れない」と判断し、絶対的なエースである米沢を1区に起用して先行逃げ切りを図った。
 釜石監督の頭では当初、2人のエース級のうち、2年の杉森を1区、3年で主将の米沢を最終5区に配置する構想だった。しかし、厳しい条件下で求められるのは集団で競り合う能力ではなく、単独での走力だった。
 「2位以下を引き離すことだけを考えていた」と米沢。スタート直後から区間記録に迫るようなペースで飛び出し、主導権を握った。2位に30秒差を付ける快走は釜石監督が「8割方(優勝が)決まった」という独走態勢を生み、ライバル校を慌てさせた。
 米沢が「(もっと)引き離して」と杉森にたすきをつなぐと、チームはこの勢いのまま3区連続の区間賞の快走劇に。4区を走る1年生の渡辺が中継所でのたすき渡しの直前で落としてしまうハプニングがあったが、釜石監督が「たすきを落とすまで完璧でした」と冗談めかすほどの完勝だった。
 昨年はけがの影響でベストな状態で大会に臨めなかった。今年はけが防止のため練習の「量」を3割ほど減らす一方、設定タイムを上げるなど練習の「質」の向上を図った。優勝した2017年、19年の練習内容を上回っていたという。
 周到な準備と「作戦勝ち」でつかんだ5回目の栄冠だった。【荻野公一】

◎ トピックス

土壇場、再逆転2位 水本佳菜 薫英女学院・2年

 リハビリの間に作り上げたフォームは土壇場で力を与えてくれた。競技場の直前で、前を走る2位の神村学園・カリバの背中をとらえて、そのままトラック勝負。最後の100メートルで一気に抜き去り、笑顔でフィニッシュに飛び込んだ。「思い通りのフォームで走ることができた。腕を振れば、まだまだ走れる」
 2位でたすきを受けたが、3キロ過ぎでカリバにかわされた。3000メートル8分台の実力を持つケニア人留学生。気持ちがくじけてもおかしくなかったが、諦めずに追走したことが「再逆転」につながった。
 昨年の入学直後から右太ももや左膝を相次いで故障。安田監督から提案された練習メニューが「早歩き」だった。1キロ6分ペースとかなり速い。故障の部位に衝撃を与えず、そのペースで「歩く」には安定したフォームと体幹の強さが求められる。腕を大きく、速く振る練習は「苦しかった」というが、成果は表れた。
 昨年9月に全体練習に合流。楽に腕が振れるようになり、けがする前よりもスムーズに走れるようになった。中学までは全国大会出場の経験がなかったが、今夏の全国高校総体では3000メートルで4位入賞を果たした。
 メンバー5人のうち4人が2年生。「準優勝は悔しいけど成長の手応えはある。来年は優勝して先輩と監督に恩返ししたい」と力強く話した。【木村敦彦】