女子第35回大会の記事

女子レース経過

女子1位でフィニッシュする神村学園のカリバ・カロライン
女子1位でフィニッシュする神村学園のカリバ・カロライン
 神村学園は2区を終えて9位と出遅れたが、3区の黒神、4区の小倉が区間3位の好走で3位に浮上。トップと1分20秒差でたすきをもらった5区のアンカー・カリバは区間賞の好走で競技場の最後の直線で逆転し、2位・仙台育英と1秒差でフィニッシュした。仙台育英は2区で先頭に立ち、その後もレースを引っ張ったが、フィニッシュ直前で逆転を許した。  立命館宇治は3区の芦田、4区の佐藤が区間賞を獲得するなど序盤から優勝争いを演じ、3位に食い込んだ。

■ レース評

◇神村学園、一丸で奪冠 「強い先輩」の逆転劇

フィニッシュ直前で仙台育英の橘山莉乃(右)を振り切る神村学園のカリバ・カロライン
フィニッシュ直前で仙台育英の橘山莉乃(右)を振り切る神村学園のカリバ・カロライン
 アンカーの5区。神村学園のケニア出身のカリバ・カロラインが2番目で競技場のトラックに入った直後だった。「行けるぞ!」。有川哲蔵監督の声が飛んだ。
 「(優勝は)ちょっとキツいと思っていたが、いつも聞いている(有川監督の)声で頑張れた」とカリバ。必死に腕を振り、最後の直線で、ついに前を行く仙台育英(宮城)の選手を抜いた。優勝のフィニッシュテープを切ると、力を出し尽くしたように倒れ込んだ。  5区の5㌔を区間賞となる14分50秒で走り、たすきを受けた時点の1分20秒差をひっくり返した。「とてもうれしいです」。3年生の立役者ははにかんだ。
 ただ、1人の力で勝利したわけではない。瀬戸口凜、野口紗喜音と2人の1年生でつないだ2区までで、順位こそ9位だったものの設定通りのタイムでしのいだ。さらに、4区の小倉陽菜(ひな、2年)が「ここまでチームを引っ張ってくれたカリバ先輩のために、いい位置でつなぎたかった」と、区間3位の力走でチームを3位に押し上げた。
 今季の神村学園は3位だった前回大会から主力だった3年生が抜け、一からのスタートだった。有川監督は「とても(都大路で)優勝を争えるようなチームではなかった」と振り返る。
 そんな中で戦力の底上げに貢献したのが、主将でもあるカリバだった。小倉は「(強度の高い)ポイント練習ではペースメーカーとして、ジョギングでも速いペースで引っ張ってくれた」と感謝する。
 鹿児島県予選は、都道府県予選でトップの1時間7分38秒をマーク。「カリバに吸い寄せられるようにチーム力も上がり、気づけばこんなにポテンシャルのある」(有川監督)チームに育っていた。
 2021年に神村学園を卒業し、実業団の日立で活動していたバイレ・シンシアさんが今年4月、病気で亡くなった。有川監督は「優勝はシンシアが残してくれた財産だと思う。早く報告してあげたい」と目を潤ませた。強い先輩に引っ張られるように、チームが団結してつかんだ勝利は、亡き先輩にささげる優勝にもなった。【深野麟之介】
 

◇仙台育英、目前で涙 完璧リード、1分20秒差

 2年ぶりの頂点となるフィニッシュテープの目前で抜かれた。仙台育英のアンカー・橘山莉乃は1秒差の2位でフィニッシュした途端、トラックに額をつけて泣き崩れた。「絶対優勝できると確信してたすきを受けたので、悔しい気持ちしかない」。出場唯一の3年生は涙が止まらなかった。
 2年生エースの細川あおいを1区、ケニア出身の留学生デイシー・ジェロップを2区に置き、序盤にリードを奪うプランを選手たちは完璧に実行した。トップで迎えた最後の中継所で2位・立命館宇治(京都)に30秒、3位・神村学園(鹿児島)に1分20秒の差。「4区までは想定以上。優勝を確信した」と釜石慶太監督も橘山と同じ思いだった。
 橘山も日本選手では区間2位の好走を見せた。だが、神村学園の3年生アンカー、カリバ・カロラインは圧倒的だった。釜石監督は「世界レベル。あとはもう、どうすればいいんだ」と脱帽した。
 2年連続で最終5区で逆転されて優勝を逃した。だが、これで2017、19、21年の優勝3回を含み7年連続で3位以内。釜石監督は「7年連続メダルは誇れるし、選手は胸を張って次のステップに向けて頑張ってほしい」と語った。
 細川は「層の厚さは仙台育英が一番。来年こそは優勝したい」と雪辱を誓った。【吉見裕都】

◎ トピックス

◇異例転校、結果で恩返し 奥本菜瑠海 大分東明・3年

 濃密な3年間を有終の美で飾った。各校のエースが集う1区。過去2年とは違うユニホームを着て区間賞を獲得した大分東明の奥本菜瑠海(3年)は「学校が変わって、親やみんなにも迷惑をかけた。結果で恩返しができた」と涙を浮かべながら、万感の思いを言葉に込めた。  序盤からアクセル全開だった。「自分が前に出て展開を作る」。レース前に心に決めたプラン通りに飛び出して、ライバルの立命館宇治(京都)の山本釉未(3年)との一騎打ちになった。
 正念場は残り800㍍付近で訪れた。「あっ、負けた。やばい」。並走する山本が先に仕掛け、一時は焦ったという。しかし、心は乱れても、鍛錬を積んできた体が「瞬時に反応して勝手に動いてくれた」。自らも驚いた粘りを勝負どころで発揮し、再逆転した。1区の区間記録は、第17回大会の新谷仁美(岡山・興譲館)の18分52秒。「正直、(1区の)新記録を狙っていたのでタイムは……。でも、自分らしく走れました」。トップでたすきをつなぎ、満足そうに振り返った。
 島根県・隠岐諸島の知夫里(ちぶり)島出身。日本海に浮かぶ人口約600人の離島から、都大路で優勝2回の興譲館に進学した。1、2年ともに1区を走り、10位、9位と下級生時から存在感を示した。しかし、最終学年で「いろいろあった」と転校を決意。弟が大分東明に入学することをきっかけに、家族で大分に移住した。
 「支えてくれた人たちがいる。その人たちに『区間賞を取ったよ』と言えるので良かった。将来はオリンピックでメダルを取る選手になりたい」
 異例の道を歩んできたランナーは、次なるレースへ走り出した。【長宗拓弥】