男子第28回大会の記事

【「全国高等学校駅伝競走大会 50年史」(全国高等学校駅伝競走大会実行委員会・2000年5月発刊)より抜粋】

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小林が4年ぶり栄冠

Vサインをあげながらゴールインする小林の大鶴
Vサインをあげながらゴールインする小林の大鶴

第28回大会は小林が混戦を抜け出して2時間10分43秒で4年ぶりに全国制覇を果たすとともに、優勝回数の最高記録を6回に伸ばした。

雨があがり、歳末の京都としては暖かいコンディション。小林は1区で16位と出遅れたが、2区・河野が6人、3区・谷口が8人を抜いて前半で2位に上がり、5区で斉藤が首位に。6区の広島が決定的な快走で優勝を不動とし、アンカー・大鶴が2位に2分1秒差をつけてテープを切った。競技場内にもちこまれた2位争いは益田農林がゴール寸前で福岡大大濠を抜いて、2位で初入賞。

■ レース評

益田農林、健闘2位

5区で益田農林・松崎[35]を抜きトップに躍り出た小林・斉藤(左)
5区で益田農林・松崎[35]を抜きトップに躍り出た小林・斉藤(左)

混戦レースの予想通り、3区に入って鹿児島実、益田農林、九州学院、鳥栖工が先頭を争い、小林、福岡大大濠、保善が5位集団を形成する展開。ここで小林の谷口がのし上がり、先頭争いに競り勝った益田農林を追い詰める。4区で離されたが、小林は5区で斉藤が飛び出し、益田農林をとらえたばかりか、逆に50メートル以上の差をつけた。さらに5、6区で怖い大濠に大差をつけ、優勝を決めた。

滑り出しは1区の区間賞を狙う橿原の米村が果敢に先頭を切った。小林は2区の河野、3区の谷口が気負うことなくじっくりと走り、後半にエネルギーをぶつけて成功した。2人の冷静さがなかったら、状況は悪くなっていたはずだ。

益田農林は1区の甚田が好位置につけ、やや不安視された3区・矢富の快走、場内で1回抜かれてなお抜き返したアンカー・中島敏の闘志など随所で強い印象を残した。初入賞した富士宮北、西脇工、名久井農、前半頑張った藤沢商、由良育英の活躍も波乱のレースを象徴する出来事だった。

驚異の8人ゴボウ抜き

両手でVサインを送り、ニコニコ顔でテープを切った小林のアンカー・大鶴だったが、1区の吉行と顔を合わせたとたん抱き合って泣き出してしまった。みんなが力を出し切ったチームワークの勝利。こんなときに言葉はいらない。2人の姿が選手のすべての気持ちを代弁していた。

ドラマの舞台は3区。前夜の雨で現れ、墨絵ぼかしの比叡山が小林の3区・谷口の目に入ってきた。高野川にかかる手前、19キロ地点が見えてきた。故郷の小林のコースと同じように目をつむっていてもわかるぐらい、谷口の頭には付近の地理がたたきこまれていた。すでにライバル・大濠の永山を振り切った。

残りの距離から谷口はスパートをかけるときがきたことを感じていた。目を上げるとゼッケン番号は「45」。同じ九州の九州学院。谷口の胸にムラムラと闘志が沸き上がってきた。「同じ九州チームに負けてたまるか」。先頭の益田農林をとらえることはできなかったが、谷口が九州学院の大草を抜き去ったところで、このレースの勝負は9割方決まった。2区の河野から10位でタスキを受け継いで8人抜き。谷口は「1人でも多く抜き、1秒でも早く走ることだけを考えた」。

3年間、栄光から遠ざかっているものの、その優勝、出場回数が示す通り、小林は駅伝の伝統校。ファンにもおなじみのチームだが、今年はユニホームをエンジ色から真っ赤に変えた。「伝統におぼれず、初陣の気持ちで。赤は燃えたぎる闘志の表れ」(外山監督)という。小林は勝利の夜、宿舎でささやかな祝宴を持ったが、26日朝、帰郷までの時間を練習にあてる。アンカー・大鶴がテープを切った瞬間から、新しい、より強いチームづくりが始まった。

【今堀 二郎】