男子第54回大会の記事

【毎日新聞社紙面より抜粋】

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大会新で仙台育英

大会新記録でゴールする仙台育英のアンカー佐藤昭太
大会新記録でゴールする仙台育英のアンカー佐藤昭太

仙台育英が97年の西脇工の持つ大会記録を1分11秒も更新する2時間2分7秒の日本高校国内国際最高記録で2年ぶり4回目の優勝を果たした。仙台育英は1区のワンジル(2年)が歴代2位となる28分4秒で飛び出し、3、7区も区間賞で一度も首位を譲らず2位に2分23秒の大差をつけた。1区で上野(3年)が日本人選手では大会初の28分台を記録した佐久長聖が過去最高の2位、連覇を狙った西脇工は3位に終わった。

■ レース評

空前2分台-7人全員、安定の走り

仙台育英が1区からトップを維持。7人全員が区間6位以内に入る安定した走りを見せた。1区は留学生4人がスタート直後からレースを引っ張る予想通りの展開に。仙台育英のワンジルが制し、優勝候補の西脇工はトップと1分26秒差の区間6位となった。

仙台育英は2区・梁瀬、3区・伊藤も区間3位と1位の好走。2区で3位、3区で2位に浮上した佐久長聖との差を1分以上広げ、独走態勢に入った。佐久長聖は4区・佐藤が区間新の走りで首位に49秒差と迫ったが、後半追い切れないまま2位に終わった。

前回優勝の西脇工は、2区で順位を下げたのが最後まで響いて3位にとどまった。前回5位の倉敷は1区の22位から徐々に順位を上げ4位。前回3位の大牟田は5位となり、同17位の東農大二は6位に食い込む健闘を見せた。

3、4区 借り返した

1区7.5キロ付近で先頭を争う仙台育英・ワンジル(左)と滋賀学園・カリウキ
1区7.5キロ付近で先頭を争う仙台育英・ワンジル(左)と滋賀学園・カリウキ

1区を終わった時点で、ライバル・西脇工との差は1分26秒。だが、仙台育英が本当の強さを見せつけたのは、その後だった。

例年なら1区の貯金を吐き出す3、4区でもペースが落ちない。特に、渡辺監督が「他の46校の目標になり、差を詰められるのは仕方がない」と覚悟した8キロ余りの3区で伊藤が区間賞。上りが続くコースの中でも一番きつい残り2キロで力強くペースアップし、独走を揺るぎないものにした。

「すべては今日のために」。好走した伊藤、佐藤秀は昨年、ブレーキになった悔しさをバネに急成長した選手だ。それぞれ中学時代はスキーとサッカーの選手。入学後はクロスカントリー中心の練習で「ランニングの基本」を素直に吸収してきたが、今年はもう一度、腹筋、背筋などの補強練習を強化。練習ではワンジルという目標を必死に追いかけ、時々はそのペースについていけるまでになっていた。

西脇工に対し、2人で1分以上の貯金を上乗せ。「昨年の借りを返さないと、この1年は終われない」と話していた佐藤秀は、レース後にチームメートの顔を見て、涙をあふれさせた。「これで、やっと終わった」

仙台育英と言えば、今回で11年連続1区区間賞を獲得した留学生のイメージが強い。だからこそ、「国際交流を進めている学校に、いい選手が出てこなければいけない」が持論の渡辺監督は満足げに言った。「留学生の1区は今年で最後と思っている。来年は2時間1分59秒も夢ではない」。1、2年生だけのチームには、大きな可能性が広がっている。

【木下 洋子】

◎ トピックス

フォームの良さ「結果に直結」

ほとんど同時にゴールする4位の倉敷・中山(左)、6位の東農大二・深津(中央)、5位の大牟田・野川
ほとんど同時にゴールする4位の倉敷・中山(左)、6位の東農大二・深津(中央)、5位の大牟田・野川

男子の1区は区間5位まで28分台に入り、12位までが30分を突破する史上最高レベルとなった。歴代2位の記録で区間賞に輝いたワンジル(仙台育英)は「カリウキ(滋賀学園)に勝てる自信はなかった」と言いながら、カリウキと激しく競り合って、終盤の失速を防ぎ、好記録につなげた。

留学生勢の壁を崩せず区間5位ながら、日本人初の28分台をマークした上野(佐久長聖)も、粘り強い追走が光った。留学生が増えて日本人のレース運びは年々難しくなるが、上野、北村(西脇工)らトラック種目でも積極的に留学生を追う選手が増えており、さらにレベルアップが期待される。

仙台育英は2区以降の日本人も力走。独走になっても積極的に攻めた姿勢や、フォームの良さが史上初の2時間2分台につながった。全員が2年生以下だけに、来年は2時間1分台も視野に入る。動きの良さが目を引いた東農大二も1、2年生を5人起用しながら6位に。日本陸連の沢木強化委員長は「正しいフォームの重要性が結果にも表れた」と評した。

入賞ライン(8位)も初めて2時間5分台に入るなど、男子のレベルは着実に向上している。しかし佐久長聖の両角監督が「高校駅伝で勝つ以上に、大学や実業団で活躍できる土台を作ることが大事」と言うように、本当の勝負はこれから。選手らが見せた走りを、高校卒業後にさらに磨いてこそ、この日の好記録に価値が生まれる。

【石井 朗生】

1区28分台「すごくない」- 上野裕一郎(佐久長聖・3年)

1区で先頭集団に続く佐久長聖の上野(中央)
1区で先頭集団に続く佐久長聖の上野(中央)

宗茂、伊藤国光、瀬古利彦、谷口浩美……スピードに魅せられた男たちが、誰一人としてなし得なかった勲章を手に入れた。花の1区で日本人初の28分台―。

冷静だった。2キロ過ぎ。留学生たちに差をつけられても、柔らかいフォームから長い足を繰り出し、ペースを正確に刻んだ。タスキを渡し、タイムを確認し、右手をぐいっ。目標の29分を6秒上回った。

「すごい記録? すごくないんじゃないですか。もっと留学生についていこうと思っていた。それに、余裕を持って中継所に入ってしまった」

中学時代は野球部。本格的に走り始めたのは高校からだが、ぐんぐんと力をつけた。11月にはトラックの10,000メートル高校最高(28分27秒39)もマーク。

中大への進学が決まっている。ただし、目標は箱根ではない。「大学の小さな枠にとらわれるつもりはない。トラックで五輪に出たい」

フォームはまだ安定していない。が、そこがまた魅力でもある。180センチの長身に可能性があふれている。

【千々和 仁】