男子第70回大会の記事

男子レース経過

1位でフィニッシュする仙台育英の吉居駿
1位でフィニッシュする仙台育英の吉居駿
 仙台育英が最終7区で逆転した。トップの倉敷と48秒差でたすきを受けた6区・ディラングが区間新の快走で5秒差に縮め、トラック勝負となったアンカー吉居駿が残り約250メートルで突き放した。倉敷は3区のキプラガットが区間賞の好走で首位に立ち、2位との差を58秒まで広げたが、リードを守れなかった。佐久長聖は後半に追い上げて3位。九州学院は鶴川が1区3位で、その後も大崩れせず4位。学法石川は松山が1区2位で発進し、5位に食い込んだ。

■ レース評

トラック勝負で逆転

7区で併走する仙台育英の吉居駿と倉敷の長塩
7区で併走する仙台育英の吉居駿と倉敷の長塩
 息詰まるトラック勝負。仙台育英のアンカー・吉居駿は、第2コーナーで並走する倉敷(岡山)・長塩の苦しげな表情を横目でうかがうと一気にスパートした。かぶっていた白い帽子を握りしめ、最後は10メートル近い差をつけて右手人さし指を高々と突き上げてフィニッシュ。3区を走った兄・吉居大と笑顔で抱き合った。
 7区の1キロ過ぎで長塩に追いつくと、吉居駿は「負ける怖さもあったが、先頭争いを楽しく走れた」という。真名子監督の「エースの吉居大、喜早に次ぐ勝負勘がある」との見立て通り、1年生らしからぬ冷静なレース運び。並走して競技場に入っても「表情に余裕がある」と真名子監督に勝利を確信させた。
 そんな逸材がそろうチームの強さを支えるのが「リズムジョグ」と呼ばれる練習法だ。徐々にペースを上げて長い距離を走る負荷トレーニングで、「タイムを設定せず、温まった体のリズムに合わせてどんどんペースを上げていく」(真名子監督)。各選手が先頭を競い合い、最後はレースさながらに激しさを増す。「前の選手を追い、後ろの選手から逃げる」走りの原点にこだわる真名子監督の指導法に、吉居駿は「かなりきついけど、サバイバル感覚で楽しい。レース勘も磨ける」。昨年の全国中学校体育大会(全中)1500メートル優勝の実力者が、練習の成果を存分に発揮した。
 東日本大震災翌年の12年、主力部員が豊川(愛知)に集団転校した。直後に赴任した真名子監督が、愛知出身の吉居兄弟ら有力選手を少しずつ集め、ようやくたどり着いた震災後初の優勝だった。さらに04年にマークした大会歴代2位の2時間1分32秒の記録にも並んだ。頼もしい選手たちが、名門復活を最高の形で成し遂げた。【伝田賢史】

倉敷3秒差で連覇逃す

 3区でケニア人留学生、キプラガットの作った58秒の「貯金」を守れなかった。「先輩がつないでくれた1番のたすきで、本当に申し訳ない……」。2連覇を狙った倉敷で唯一2年生で出場したアンカーの長塩はフィニッシュ後、大粒の涙を流してうなだれた。
 トップと8秒差の5位でたすきを受けたキプラガットは、次元の違う走りで、あっさりと先頭へ。「走っていて楽しかった」と区間記録まで4秒差の快走を見せたが、新監督は「後半の戦力を考えれば抜かれる」と覚悟していた。6区で仙台育英・ディラングの猛追を受け、長塩にたすきが渡った時点で貯金は5秒しかなく、逃げ切れなかった。
 この5年間で優勝2回、準優勝2回、3位1回と驚異的な成績を残した。ハイレベルな留学生の存在を励みに意識を高めつつ、故障の予防に気を配って継続して練習を重ねることで力をつけた。
 今大会出場した日本選手は、中学時代に個人種目で全国大会の経験がないという「雑草軍団」(新監督)。わずか3秒差で連覇は逃したが、歴代4位の好タイムは選手の成長を物語っている。【村上正】

◎ トピックス

1区、日本選手歴代最高 八千代松陰・3年 佐藤一世(いっせい)

 各チームのエースがひしめく「花の1区」で、日本選手歴代最高の称号を手にした。佐久長聖の上野裕一郎(現・立教大男子駅伝監督)が2003年に出した記録(28分54秒)を6秒更新。「ここまでタイムが出るとは思わなかった。攻めのレースができてよかった」と笑みがこぼれた。
 前回大会も1区を任され、終盤に追い上げて2位に入った。今回は常に先頭集団で走ることを意識し、勝負どころを見極めた。つまずきかけてヒヤリとする場面もあったが、「ラストまでもつれるとやられる」と残り500メートル付近でスパート。過去には上野のみだった28分台を7人がマークしたハイレベルなレースを制した。
 今季は一時不振に陥り、全国高校総体は予選で棄権。長野・菅平高原での他校と合同の夏合宿で鍛え直し、復調した。卒業後は大学駅伝の強豪、青山学院大に進学予定。「みんなでたすきをつなぐ。ともに喜べるのが駅伝の魅力」と走りを磨く。【芳賀竜也】