男子第73回大会の記事

男子レース経過

1位でフィニッシュする男子の倉敷・檜垣蒼
1位でフィニッシュする男子の倉敷・檜垣蒼
倉敷は3位でたすきを受けた3区のキバティが区間新をマークしてトップに立った。4区・桑田も区間賞の走りで2位に29秒差をつけ、それ以降も後続との差を着実に広げて快勝した。2位の佐久長聖は3区・吉岡大が一時トップに立つも、倉敷にかわされた。しかし、その後も順位を守った。3位の八千代松陰は1区の綾ら多くが区間上位の安定したレース運びが光った。4位の埼玉栄も常に上位でたすきをつないだ。

■ レース評

◇宿敵引き離す

3区、佐久長聖の吉岡大翔(右)を突き放す倉敷のサムエル・キバティ
3区、佐久長聖の吉岡大翔(右)を突き放す倉敷のサムエル・キバティ
 最大のライバルを倒すために打った「ばくち」が、吉と出た。2人のケニア出身留学生をエントリーした倉敷。新雅弘監督が3区に起用したのは、過去2大会を走った3年生ではなく、2年生のサムエル・キバティだった。都大路デビューで圧巻の走りを見せて区間新記録をマークし、優勝を大きく引き寄せた。
 優勝を争うライバル・佐久長聖は、3区に5000メートルで高校新記録をマークした吉岡大翔(ひろと)を起用し、留学生と真っ向勝負の構えだった。キバティは吉岡と6秒差でたすきを受けると、力強いフォームでじわりと追い上げ、3.5キロ付近で逆転。逆に15秒差をつけて4区につないだ。
 こうなれば、都道府県予選タイムが全国トップの粒ぞろいの選手たちが着実に自分の仕事を果たすだけだ。4区の2年生・桑田駿介は「あまり差がなくて不安もあったが、監督の指示通りに前半抑えて、後半ペースアップできた」。区間賞の力走で、佐久長聖とのリードを約30秒に広げて勝負を決定づけた。
 終わってみれば7人全員が区間5位以内という安定感抜群のレース運び。1区を走ったエースの南坂柚汰が「自分があと10秒速く走れていれば、(他の選手の奮起も含めて)2時間0分台を出せた可能性があった」と悔しがるほどの快勝だった。
 新監督は留学生の勧誘を代理人に任せることなく、ケニアまで直接赴いてレースを観察し、声を掛けるという。過去2大会を走った3年生留学生のイマヌエル・キプチルチルを「良くもなく悪くもなくたすきを持ってくるタイプ」と評価。キバティは都大路の経験がなく、寒さへの対応力も未知数だったが、「爆発力がある。失敗レースになるかもしれないが、中途半端に行って後悔するよりは」(新監督)と抜てきした。その眼力が光った。
 倉敷の日本選手たちは、中学時代に目立った実績のない選手が多い。それが、新監督による「けがだけはしないように、腹八分目の練習」をこつこつと積み上げ、過去7大会連続入賞、うち優勝2回という強力なチームに育っている。
 歴代最長の45年連続出場を続け、選手たちは「一度途切れたら二度と再現できない」というプレッシャーとも戦ってきた。全国の強力なライバルチームと競り合い、持てる力を存分に発揮してみせた。【伝田賢史】

◇佐久長聖「最低限」達成 日本選手のみ記録更新

 準優勝の佐久長聖が、日本選手だけの高校最高記録を「奪還」した。2時間1分57秒をマークし、前回大会の洛南(京都)の記録を2秒更新した。
 高校最高記録は2008年に佐久長聖が大迫傑(ナイキ)らを擁して初優勝した際に樹立。その記録は20年に洛南に塗り替えられ、さらに前回大会で再び洛南に更新された。栄誉を自らの手に取り戻すことは、今大会の「最低限の目標」(7区の松尾悠登)だった。
 優勝と記録更新。この大きな二つの目標を達成するため、チームの大黒柱で5000メートル高校記録保持者の吉岡大翔(ひろと)も力を出し切った。留学生が多く走る3区を担い、倉敷のサムエル・キバティに食い下がった。トップは譲ったものの、区間2位の22分51秒と力走した。各選手が想定通りの走りをしての記録奪還に、高見沢勝監督は「それぞれが仕事をしてくれた」と選手たちをたたえた。
 レース後、吉岡は「トップでたすきを渡すという役割を果たせなかった」と涙を流した。5年ぶりの頂点を逃した悔しさは残るが、全国の駅伝ファンに鮮烈な印象を残したのは確かだ。都大路の舞台で多くの名シーンを生んだ佐久長聖が、再び大会の歴史に名を刻んだ。【黒澤敬太郎】

◎ トピックス

◇有言の大逃走、雪辱区間賞 長嶋幸宝(そなた) 西脇工・3年

 西脇工の1区の長嶋幸宝(そなた)が「宣言通り」の快走を見せた。スタート直後に飛び出し、2位集団を大きく引き離した。その姿はまるで去年のリプレー映像を見ているよう。ただ、この日は最後まで先頭を譲ることはなかった。
 昨年も1区でスタート直後に飛び出し、集団を引っ張ったが、中盤で失速。集団に吸収され、最後は13位だった。だが、その直後。足立幸永監督に「来年も飛び出します。そして勝ち切ります」と宣言。レース上の駆け引きではなく、純粋な力で勝てなければ、将来的にランナーとして世界の舞台で活躍できないと考えたからだ。
 最後の都大路。数日前から未体験のプレッシャーに襲われた。「転倒したら」「集団に吸収されたら」。寝られない日が続き、当日の朝は吐き気もあった。大会の注目選手の一人で、区間賞は当然の「ノルマ」。7キロ過ぎまで集団の中で力をためることが区間賞獲得に最も近いと考えたが、「1区は勇気を与える走りを見せなければ」。自らの将来のため、チームのため、極限の緊張感の中でも勇気を持ってリスクを取った。
 昨年失速した中盤にも表情には余裕を感じさせた。この1年、後半に粘るための練習を繰り返してきたからだ。ラスト2キロでは、向かい風を受け続けたことでしんどくなったが、「この苦しさを味わえているのは飛び出した自分だけ」。苦しさをも糧とし、2位と19秒差で走り切った。
 今後は実業団の強豪・旭化成に進み、5000メートルや1万メートルで世界での活躍を誓う。「優勝できなくて悔しいが、自分のスタイルを貫くことができた」。これからも有言実行のランナーであり続ける。【大東祐紀】

◇ケツメイシ息子 4位貢献

 人気音楽グループ「ケツメイシ」のリーダー、大蔵さんを父に持つ埼玉栄の吉田蔵之介(3年)が最終7区を走り、チームの4大会ぶりの入賞となる4位に貢献した。
 吉田は14分35秒で区間4位と踏ん張った。「14分10秒台が目標だったが、まだまだ力不足だった」と振り返った。応援に駆けつけた大蔵さんも陸上経験があり、現在もフルマラソンに挑戦しているという。吉田は幼少期に父と一緒に走った経験などから陸上を始めた。卒業後は国学院大に進学し、箱根駅伝を目指す。「家族に感謝を伝えるためにも、大学でも頑張りたい」と話した。【岸本悠】