男子第75回大会の記事

男子レース経過

男子の1位でフィニッシュする佐久長聖の石川浩輝選手
男子の1位でフィニッシュする佐久長聖の石川浩輝選手
 佐久長聖は3区の佐々木が区間賞の好走でトップに立った。4区で後続に追いつかれたが、アンカーの石川が残り1キロ付近でスパートを決め、大牟田とのデッドヒートを制した。2位の大牟田は、4区・野田、5区・塚田、6区・森本の3連続区間賞で先頭に立ったが競り負けた。仙台育英は1区で14位と出遅れたが、2区から巻き返して3位に入った。

■ レース評

◇紡ぐ佐久長聖、混戦連覇 最速集団、「最強」証明

6区、中継所前で大牟田の森本守勇(左)を引き離す佐久長聖の岸端悠友
6区、中継所前で大牟田の森本守勇(左)を引き離す佐久長聖の岸端悠友
 持ちタイムの「速さ」だけではない「強さ」があった。5000メートル13分台のランナー5人をそろえる佐久長聖。最速集団の連覇の夢をつないだのは、2人の「14分台ランナー」が見せた粘りだった。
 3区で佐々木哲がトップに立ち、前回大会アンカーで好走した4区の篠和真へ。2大会連続の独走態勢を築くかと思われたが、篠が終盤で失速し、大牟田と仙台育英に追いつかれた。高見沢勝監督「4区で差を広げるプランだったので、まずいな、と。正直不安だった」と当時の思いを明かす。5区の酒井崇史と6区の岸端悠友はともに5000メートル14分台で、メンバーの中で6、7番手の選手だったからだ。厳しい展開にも、酒井は「今年は競り勝つレースをすることを心がけてきた。集団で来ることも想定していた」と冷静だった。区間2位の好走で、仙台育英を引き離し、先頭の大牟田と2秒差でつないだ。6区の岸端も、大牟田の森本守勇と同タイムの区間賞で2秒差を維持した。5000メートル13分台のアンカー・石川浩輝に大牟田と僅差でたすきを渡せたことが逆転勝ちを生んだ。前回大会で出した大会記録に33秒及ばなかった。
 それでも、浜口大和と佐々木の2大エースに触発されるように、競り合いで負けない走りを全員が磨いてきた。岸端は「心強い2人に引っ張られて、日々の寮生活から妥協なく競技と向き合ってきたことが強さにつながった」と振り返った。主将の浜口は「昨年は『最速』のチームを目指していたが、今年は各区間で競り勝てる『最強』のチームを目指してきた」と胸を張った。「最強」を証明する連覇だった。【皆川真仁】

◇大牟田、肉薄2位 区間賞3人 24年ぶり頂点あと一歩

 大牟田の2年生アンカー・村上遵世(じゅんせい)は、フィニッシュすると思わず両手を合わせた。「準優勝と優勝の違いはすごくある」。1位の佐久長聖とは24秒差。24年ぶりの頂点も視界に入っていただけに、なおさら悔しかった。村上がたすきを受け取った時点で、佐久長聖を2秒リードしていた。5000メートルの持ちタイムで及ばない相手に食らいつき、一騎打ちの展開に持ち込んだ。
 だが、残り1キロ付近で大きく離された。「相手の力も借りて走ろうと思ったが、力の差があった」それでもチーム力の高さを感じさせる2位だ。前半から好位置に付けると、首位を争う位置まで押し上げた4区の野田顕臣(けんしん)から3人連続で区間賞。全7区間のうち6人が区間4位以上の安定したレース運びで佐久長聖に肉薄した。
 野田は「今年はエースというより総合力のチーム」という。6位だった前回大会は最上級生に複数のエース格を擁したが、今年は飛び抜けた存在がいない。だからこそ、練習では集団からこぼれ落ちそうになると互いに声をかけて踏ん張り、オーバーワークになりそうな時は休息を入れるよう促した。
 一丸となって力を高め合い、野田が「誰がどこを走ってもいい」と胸を張るチームができあがった。過去5回優勝しているが、近年は全国大会に出場できない年もあった。2位は2013年大会以来。あと一歩で頂点に届かなかった悔しさも、古豪復活の糧となる。【石川裕士】

◎ トピックス

◇外国人留学生、3キロでは… 最短区間に起用制限

 外国人留学生の起用が最短3キロ区間(男子2、5区、女子3、4区)のみに制限され、レースに与える影響にも注目が集まった。今大会は、留学生起用の効果が限定的なものにとどまった。男子優勝の佐久長聖、女子優勝の長野東はともに留学生がいない。日本選手のみのチームが男女ともに大会を制したのは、2013年の男子・山梨学院大付(現山梨学院)、女子・豊川以来11年ぶりだ。ルール変更の影響で象徴的だったのは、ここ10年で男子優勝3回の倉敷の失速だろう。
 前回までは最長1区(10キロ)以外は留学生を起用できた。2番目に長い3区(8・1075キロ)で留学生が走ってレースの局面を変える働きを見せてきた。 しかし、今大会は4区終了時点で10位と波に乗れず、5区を担った1年生の留学生キプロブ・ケンボイも思うような走りができず、区間14位だった。最終的に10位でフィニッシュし、14年大会以来10年ぶりに入賞(8位以内)を逃した。 倉敷の中元健二監督は期する思いはあったという。
 「留学生の区間配置が変わったタイミングでもあり、最低でも入賞はしたかった。日本選手には『自分たちが強くなれるチャンスだよ』と言ってきたが……」ケンボイについては「本来は長距離向きの選手だが、ルールはルールなので」と思いやった。
 一方、女子は上り基調で地力が問われる3区に留学生全8選手が集中し、1~8位の区間上位を独占した。区間トップのルーシー・ドゥータ(青森山田)は、従来の記録を7秒更新する9分14秒の区間新記録を樹立。日本選手トップの区間9位の選手との差は33秒だった。
 しかし、1、2区の遅れを巻き返してトップに立つことはできず、最短距離では「ゲームチェンジャー」になり得なかった。 今回のルール変更は留学生頼みの展開が多かった最近のレースを疑問視する声が高まったことによるものだった。日本陸上競技連盟強化委員会の高岡寿成シニアディレクターは「留学生の影響を受けにくくなったのは事実だと思う。(限られた区間で)留学生の力をいかに引き出せるかが重要」と振り返った。
 留学生に関するルールは、今回の変更が最終結論ではない。19年に47都道府県の高校体育連盟陸上専門部を対象に行ったアンケートの回答でも「問題は留学の目的や経緯。日本人であっても、他県からの進学、過度な勧誘や授業料免除など高校生の部活動としてふさわしいのか」という問題提起があった。 東洋大の竹村瑞穂准教授(スポーツ倫理学)は疑問を呈する。
 「そもそもの『入り口』を明確にすべきだ。高校は教育の中での競技活動が前提としてある。留学生の学力保証や透明性はどのように確保されているのか。留学生受け入れの前提条件を整えていなければ、今回の区間変更の拡大も内々の対応に終わったような印象を与え、不信感を招いてしまう」 留学生を巡るルール作りは複雑で、勝利至上主義や公平性も立場によって見解が変わる。「正解のない問い」の答えに少しでも近づくための検討を、これからも続けなければならない。【岩壁峻、生野貴紀】

◇極度の集中、力に 1区・日本選手、最高記録更新 八千代松陰・3年 鈴木琉胤(るい)

 1区の日本選手の最高記録を更新した八千代松陰の鈴木琉胤(るい、3年)は終盤の感覚を「自分じゃない自分が走ってくれたみたいだった」と振り返る。走っている自分を上から見るような感覚になったという。 スタート直後から先頭集団を引っ張った。意識したのは後ろの選手たちとの駆け引きではない。2019年大会の八千代松陰の佐藤一世と23年大会の須磨学園の折田壮太が出した日本選手の最高記録の28分48秒にどれだけ迫れるかだった。
 「タイムを追えばおのずと(後ろは)離れる。誰が来ても関係なく、自分のレースをする」。事前に描いていたプラン通りの快走で、中盤からは独走状態に入った。7キロ地点では、記録より10秒ほど遅れていたが、沿道で地元の友人や恩師がエールを送る姿が目に入った。「昨年の1区で自分がきつくなった場所にいてくれって頼んでいた。そこでもう1回、ギアを上げる」。極度の集中の感覚になったのは、この時だ。残り3㌔を8分1秒のハイペースで駆け抜け、記録を5秒更新してたすきをつないだ。
 千葉県松戸市出身。中学まではサッカー部に所属しながら陸上の大会にも出ていた。中学3年の全日本中学校選手権の3000メートルで優勝し、高校から陸上に専念した。 高校2年時はけがで走れない時期もあったが、体のバランスを整える補強トレーニングで癖を直すなど、できることを確実にこなしてきた。「自分がやれることはすべてやって、準備は完璧だったという自負があった」。積み重ねてきた自信も、集中状態への呼び水になった。 来春、早稲田大に進学する。駅伝では箱根駅伝の優勝、個人では28年のロサンゼルス・オリンピック出場を見据える。スケールの大きさを、自身最後の都大路で証明してみせた。【吉川雄飛】