女子第32回大会の記事

女子レース経過

1位でフィニッシュする仙台育英の木村
1位でフィニッシュする世羅女子のテレシア・ムッソーニ
 世羅がアンカー勝負を制した。1区で4位につけると、2区以降も粘って5区のムッソーニにトップと42秒差の8位でたすきをつないだ。ムッソーニは区間新記録の走りで先頭の神村学園を3キロ付近で逆転。そのまま突き放した。神村学園は5位でたすきを受けた5区のバイレが4人を抜いて一時トップに立ったが、リードを守れなかった。仙台育英は全区間で安定した走りを見せて3位。3区までトップを走った北九州市立が4位に入った。

■ レース評

5区42秒差、確信の逆転

5区で後続を引き離す世羅のテレシア・ムッソーニ
 世羅のアンカー・ムッソーニがたすきを受けたのはトップの立命館宇治と42秒差の8位。優勝候補の神村学園も5区で留学生のバイレが走り、逆転は難しいと思われたが、ムッソーニは「自信を持っていた」。3キロ付近で先頭を走るバイレを抜き去るとそのままフィニッシュし、チームメートと喜びを分かち合った。
 県予選会では5区で区間1位になったが、左脚の痛みや貧血で満足のいく走りができなかった。都大路へ向けてウオーキングなど軽めの練習を中心にして疲れを取ると徐々に復調。前日に「9割まで戻ってきた」(中川久枝監督)という見立てをはるかに超えた走りで、5区の区間記録を27秒も更新する快走を見せた。
 ケニアから留学した当初は日本語を話せなかったが、この日はインタビューで「勝つとしか思わなかったけん」とチームメートから教わった広島弁も飛び出した。周りからの信頼は厚く、1区を走った主将の山際は「(トップの姿が)見える位置で渡したらラストで逆転してくれると思っていた」と話す。
 神村学園などの優勝候補には、3000メートルの自己ベストを合計したタイムで後れを取っていた。中川監督も前日に目標を「入賞」と語るなど控えめで「優勝したい気持ちはある一方で、リラックスしていた」と振り返る。
 1区の山際が4位に入ると、4区まで粘りの走りで順位をつなぎ、アンカーに望みを託した。終始落ち着いたたすきリレーで並み居るライバルを押しのけ「120点満点」(中川監督)の走りで栄冠をつかみ取った。【黒澤敬太郎】

神村学園、ケガで失速 調整ミス 大会新ならず

 神村学園のアンカー・バイレは2位でフィニッシュ後、競技場外で一人、座り込んで泣き続けた。有川哲蔵監督やチームメートが迎えに来ても涙は止まらなかった。
 トップと19秒差の5位でたすきを受けた。ライバルとみていた仙台育英の米澤も含めて次々と追い抜き、約1.5キロで先頭に。予想したレース展開だった。
 しかし、そこからペースが上がらない。3キロ過ぎには世羅にかわされて失速気味に。レース後、泣き崩れる姿を見た有川監督は「本当に優勝させたかったんだな」と痛感した。
 失速の原因はレース中に右太ももを痛めたことだ。3区の中須、4区の鳥居が区間賞を取ったが、1、2区は区間11位と12位。思ったような走りができない選手が多く、有川監督は「コンディショニングがうまくいかなかった」と悔やむ。
 県予選会は1時間6分4秒をマーク。留学生を含めたチームでの高校最高記録だ。都大路では1996年に埼玉栄が記録した1時間6分26秒の大会記録更新を目標に、厳しい練習に取り組んでいた。主将の中須は「後輩たちには『最強チームを作っていくぞ』という気持ちでやってほしい」。やり残した夢を託す。【鈴木英世】

◎ トピックス

1区独走、勇気の区間賞 酒井美玖(みく) 北九州市立・3年

 スタートが苦手だ。だが「人生最高のスタート」から区間賞を獲得し、チームを過去最高の4位に導いた。
 各校のエースが集う1区。スタジアム内でトップに立ち、悠然と一人旅を続けた。終盤の上り坂では険しい表情も見せたが、2区の柳井が見えると、「みんなで決めていた」というまぶしい笑顔でたすきをつないだ。19分18秒。「狙っていた」区間賞だった。
 陸上より野球のキャリアが長い。兄の影響で小学2年から野球を始め、中学も野球部で唯一の女子選手として白球を追った。主に1番打者で三塁手だったが「けん制が怖く、盗塁は苦手」。一方、長距離には自信があり、中学時代は毎年、陸上部の補強選手として駅伝大会に出場していた。そこでの喜びが忘れられず「駅伝で日本一になりたい」と北九州市立に進んだ。
 足りなかったのは自信だった。荻原知紀監督の「誰よりも力はあるんだから、トラックから飛び出ろ」との言葉が自らを奮い立たせた。「1人で走るのは怖くなかった」。卒業後は実業団に進む予定。「いずれはマラソンで五輪に出たい」。陸上人生はまだ中継点だ。【森野俊】

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